東京地方裁判所 昭和26年(行)20号 判決
原告 大沢義男
被告 東京都知事
一、主 文
原告の請求はこれを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告代理人は、被告が昭和二十五年十月十三日訴外吉田栄吉に対してなした東京都北多摩郡国分寺町大字国分寺字殿ケ谷戸三百三十番地内における公衆浴場営業許可処分はこれを取り消す。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、被告は、昭和二十五年十月十三日訴外吉田栄吉に対し同人が東京都北多摩郡国分寺町大字国分寺字殿ケ谷戸三百三十番地内に建設した建物を使用して公衆浴場営業を営むことを許可する旨の処分をなしたが、昭和二十三年東京都規則第二百四号公衆浴場法施行細則第七条第一項第一号によれば、浴場建物の前面は道路又は隣地に対し、一・八メートル以上の空地を有してゐなければならないところ本件浴場建物の前面は、その東北側に隣接して建てられてゐる原告方家屋に対しわずかに〇・三メートルの空地を存するに過ぎないので、この点において本件許可処分は右規定に違反して為された違法のものであるから、その取消を求めるため本訴請求に及んだ次第であると述べ、被告の主張に対し、本件浴場建物の出入口がその北西側道路に面していて原告方家屋に面してゐないこと及び被告主張のような前記東京都規則の改正があつたことは執れも之を認めるが、その余は否認すると答えた。(立証省略)
被告代理人は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、原告主張の事実中被告が訴外吉田栄吉に対し原告主張の日時其の主張のような公衆浴場営業許可をなしたこと、公衆浴場法施行細則に原告主張のような規定の存すること並びに原告方家屋が本件浴場建物の東北側に空地をへだてて隣接してゐることは認めるがその余は否認すると述べ、(一)昭和二十三年東京都規則第二百四号浴場営業法施行細則第七条第一項第一号にいう前面とは、側面及び後面に対する意味の前面であつて、浴場入浴者が一般に出入する出入口の設けられてゐる一面を指すところ本件浴場建物の出入口は北西側道路に面し、その前面は道路に対し一・八メートル以上の空地を存するから、本件浴場建物と其の東北側側面にある原告方家屋との間に一・八メートル以上の空地が存しなくても、これを以て本件許可処分が右規定に違反してゐるということはできない。(二)仮に右規定にいう前面が浴場建物周囲の各面すべてを指すとしても、同条第二項によれば、知事は土地の状況建物の種類その他特別の事由があるときは同条第一項各号所定の事項につき斟酌して許可し得るのであるから、同条第一項第一号所定の空地が存しないことを以て直ちに本件許可処分が違法であるとすることはできない。(三)又同条第一項第一号の規定は昭和二十六年四月七日規則の改正により削除されたのであるが、行政処分が違法であるかどうかは、処分当時の法令ではなく現在有効な法令によつて判断すべきであるから、現在においては本件処分に原告の主張するような違法の点はない。(四)更に、同条第一項第一号の規定は、専ら風俗上の見地から制定されたのであつて、隣接住民の建築物の保護を目的とするものではない。従つて仮に本件処分が右規定に違反してゐもるとしても、これにより原告の権利が侵害されることはあり得ず、結局原告は本訴において権利保護を求める利益を有しないものであると述べた。(立証省略)
三、理 由
被告が昭和二十五年十月十三日訴外吉田栄吉に対し原告主張のような公衆浴場営業許可を与えたことについては当事者間に争いがないところ、昭和二十三年東京都規則第二百四号公衆浴場営業法施行細則第七条第一項第一号にいわゆる前面の意義について争いがあるのでこの点につき考えてみるに、通常の用語例に従えば、建物の前面とはその建物の主たる出入口の存する面の前方の空間をいうものと解すべく右規定にいう前面も、これと異る意味に解すべき特別の理由がない限り、右用語例に従つて解するを相当とするが、右規定については之を特段に解すべき特別の理由は到底認めることができないから、右規定にいう前面は、本件浴場建物についていえば、その北西側浴客の出入口のある面の前方の空間をいうものと解すべきである。原告は右規定に謂う前面とは建物の周囲全面を指し所謂側面をも含むと主張し本件浴場建物の東北側側面と原告方家屋との間に一・八メートル以上の空地が存しないことを攻撃してゐるのであるが、右空地は前記規定にいう浴場建物の前面の空地とはいえないこと前述の通りであるから、右主張は到底採用するに由なきものと謂わざるを得ない。のみならず弁論の全趣旨によりその成立を認め得る乙第一号証によれば、本件浴場建物の北西側前面は前記道路に対し一・八メートル以上の空地となつてゐることが認められるから、結局本件許可処分は何等の瑕疵あることなく、従つて爾余の点につき判断を加うるまでもなく、原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 石川秀敏 満田文彦 小林信次)